椅子のモダンデザインと家具蔵の椅子1
2016.12.12
御存知の方もいらっしゃるかと思いますが、家具蔵の総合カタログではチェア、いわゆる椅子については、ひとつのデザインにつき見開き2ページという分量を割いています。
椅子は「人の身体に最も近い家具」「小さな建築」といわれるように、日常の生活においてたいへん重要な役割を果たすものであり、その構法やつくりを追求することは建築のそれとなんら変わる事のない程、複雑で豊富な知識と精密な技術を要します。
そんな椅子の歴史を紐解きながら、家具蔵の椅子を見てみると、また違った見方ができるようになるのです。
19世紀以前の椅子の歴史とは
古代、椅子は権威の象徴でした。
そもそもの椅子の起源は紀元前3000年頃前のエジプト、というのが一般的な見解です。
ツタンカーメン王のお墓からは、黄金の玉座や寝台が発掘され、その機能や見た目が今の椅子とほぼ変わらないことから、それが椅子の原型とされています。
また、この時代には宮殿で使われていた椅子や、持ち運び可能な折り畳み式の椅子なども登場していたことがわかっています。
多くの国と時代で王様が座る椅子は豪勢な装飾が施され、階級を表すものであったことは間違いないでしょう。
その影響は日本の中世でも上位階級の武士が戦場で折り畳み式のスツールのようなものに座っていたこと(=高い位置に着く)からもわかります。
そのなかで一般の階級が座るものは、ごくごくシンプルなつくりが多かったのですが、その考え方に「座り心地」をよくするためにはどうすればよいか、疲れない椅子の構造が研究されてきた経緯があります。
「曲線美」を持つ椅子の誕生の後、ルネサンスの時代を経て座面に布が張られ、やがて座面に詰めものが使われるようになりました。
いわゆる産業革命と曲木の技術(有名なのがミヒャエル・トーネットの「No.214」という椅子です)が大量生産を可能にすることにより、機能性を重んじた椅子が庶民の間にも普及するようになってきました。
20世紀以降のモダンデザインの流れ-第一次世界大戦後?-
20世紀に入ると、家具・インテリアのデザインの流れは、それ以前の装飾重視の流れからは大きく一変します。
石や木といった伝統的な素材の他にも、新しくガラスや鉄、コンクリートなどといった工業素材が使われはじめ、デザイナーたちは、現代の生活に適応する新しい空間と、それに呼応する家具を提案するようになりました。
最初に「機能性」を重視する家具を生み出す基盤となったのは「バウハウス」。
1919年、ドイツに設立されたバウハウスはミース・ファン・デル・ローエやワルター・グロピウス、マルセル・ブロイヤーらの著名な建築家が集まり、量産をテーマにした多くの家具をつくりました。
また、第一次世界大戦後のオランダでは「デ・スティル派」に属するヘリット・トマス・リートフェルトが、フランスではル・コルビュジエらが新しい思想に基づいた家具のデザインを行っています。
同じ時期には北欧でもコーア・クリント、ブルーノ・マットソン、アルヴァ・アアルトらが伝統的な木工技術を活かしながら、合板や集成材などの新しい材料を取り入れた、合理的で美しい北欧風の家具がつくり出されました。
20世紀以降のモダンデザインの流れ-第ニ次世界大戦後 ?-
第二次世界大戦後の家具・インテリアのデザインの流れは、北欧・アメリカ・イタリア・西ドイツの4つにまとめることができるといえます。
その中でも、特に北欧諸国は戦後のヨーロッパでもいち早く産業の復興を成し遂げた地域でもありました。
その基盤を成したのが、従来の伝統工法を活かしたクラフト(手工芸)的家具の生産です。
特にデンマークは1950年頃を頂点としてデザインの世界に大きな影響を与えました。
ハンス・J・ウェグナー、フィン・ユール、アルネ・ヤコブセン…。
彼らのデザインの根底には北欧の人々の国民性が反映され、簡素ではありますが柔和で高い品質を保つ合理性を併せ持つものでした。
人間味にあふれるそれらの家具は今日に至るまで主要なデザインの流れとして世界の家具の中に生き続けています。
この精神は家具蔵の椅子にも生きている、ともいえるでしょう。
家具蔵の椅子はある意味でシンプルなデザインのものが多く、そのなかでも素材・つくりともに高い品質を追求すべく、原木仕入で素材を厳選し、日本の伝統技術に裏付けされた職人技をふんだんに盛り込んだものでもあります。
それでいて、無着色で仕上げられ、木本来の木目や自然の色目を楽しむその表情は、どこまでも柔らかく優しいフォルムとビジュアルを誇ります。
厳しく長い冬を過ごすなか、自然への敬意や恵みへの感謝を忘れずに、人間にとって最も身近である「木」という素材でデザインと快適さを追求する北欧の民族。
豊かな四季と色鮮やかな自然に囲まれた風土に暮らし、そのなかで世界に誇る木工技術の伝統を連綿とつづってきた私たち日本人。
どこか似ている二つの民族性。
椅子というひとつのプロダクトから、海を越えての共通性を感じ取ることができる、これもデザインのひとつのありかたなのかもしれません。
参考文献:彰国社刊 小原二朗・加藤力・安藤正雄編「インテリアの計画と設計・第二編」
彰国社刊 壁装材料協会発行「インテリア学辞典」
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