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クスノキ 国産香木としての知られざる歴史

2017.9.3

クスノキ。

皆さんも一度は聞いたことがあるでしょう、有名な広葉樹です。

大木になることでも知られており、鹿児島県蒲生八幡神社の「蒲生の大楠」(幹周24.2m)は全樹種を通じて日本最大の巨木とされています。

また、長崎県の山王神社のクスノキも原爆投下による被災を経て今なお立ち続けて、人々の心の拠り所になっています。

今回はそんなクスノキのお話です。

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仏像に使われたクスノキ

クスノキと聞いて最初に思い浮かべるのは

「神社などのご神木に多い」

「この木から採れるショウノウは昔から防虫剤として有名」

「カンフル剤の語源」…

といったところでしょうか。

一方で、実は皆さんもよく目にする仏像によく使われていました。

小原二郎氏が1963年に発表した論文で、500体ほど調査した古い日本の仏像に使われた樹種は34種ありました。

ヒノキが最も多いとされていますが、ヒノキが使われるようになるのは奈良時代(8世紀)以降で、飛鳥時代(7世紀)の仏像はほとんどがクスノキで作られていたということです。

日本における木彫仏のいちばん古い記録は『日本書紀』巻一九「欽明天皇一四年(五五三年)五月、茅渟の海に浮かぶ樟木を得て、その材で彫刻した」というものです。

日本にはじめて仏像が献納されたのは『上宮聖徳法王帝説』(聖徳太子の伝記集)によれば五三八年、『日本書紀』では五五二年であることから、おそくともその15年前後の間に、百済からの渡来仏を手本にした仏像がクスノキで彫られたと考えられています。

なぜ木彫の用材としてクスノキが最初に使われたのかという理由は、明らかではありません。

そもそもクスノキは「史前帰化植物」といって、中国大陸や台湾、東南アジアに生息し、それらの地域から日本に進出したものです。

おそらくわが国に仏教が伝来する中でそうした大陸文化を吸収した数々の仏像の中に、いわゆる香木で彫られた木彫仏が含まれていたので、それに似た用材を求めてクスノキが選定されたのでしょう。

金銅仏をもたらした百済の工人たちが、檀木に似た用材を捜すとしたら香木の代表であるクスノキを選ぶのは自然の成り行きであった、というわけです。

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香木と白檀

ここで「香木」といった言葉が出てきました。

「コウボク」と読みますが、これは良い香り・独特の香りを持つ木材のことです。

特に有名なのが白檀(ビャクダン)です。

この白檀やシタン(紫檀),センダン(栴檀)などを指して、「壇木(ダンボク)」とも言います。

壇木とは南方産の香木類の総称でもあります。

その代表が白檀というわけです。

白檀はインドおよびジャワ、チモール島などに産する熱帯性の樹木です。

この白檀の幹を土の中に埋めておくと、辺材の部分は腐朽して心材の部分のみが残ります。

その心材をいわゆる材としての「白檀」とよびます。

特徴として、材は緻密で重く油脂分を多く含んでいて硬く、色は淡黄または淡褐色で、芳香が強く、美しい光沢をもちます。

また精細な加工が可能であり、そこから小形の彫刻の用材として古くから珍重されてきました。

材を蒸溜して白檀油を取る、白檀油もまた貴重な香料として古くから知られています。

『日本書紀』によれば、天智天皇の十年(六七一年)に、法隆寺の仏に奉った諸珍財の中に、この白檀の名が見えているから、当時すでにこの材が貴重な香木として輸入されていたことは想像に難しくありません。

 

ご存知のように仏教は南方のインドで生まれました。

暑い地域ですから、その儀式の中には汗の臭いを消す工夫がいろいろなところになされています。

香木はそのための有力な道具でした。

日本に伝わっている最も有名な香木の一つに正倉院の「蘭奢待(らんじゃたい)」がありますが、その例からみても、仏教の中で香木がいかに珍重されていたかがわかります。

 

そして、クスノキ

さて、話はクスノキに戻ります。

この時代に彫刻の用材を選ぶ条件として、まず一番に「香りが高いこと」があげられたに違いありません。

その理由は前述したとおりですが、クスノキはわが国の香木の代表であってその高い香りはよく白檀をも凌ぐものがあります。

また材質は滑らかで刃当たりが良く、逆目もたたないので、当時の刃物で加工するには適当であったでしょう。

それに耐久力も強いという特長があります。

また、古代はクスノキの大木が豊富に生えていました。

またクスノキは長命で樹齢一千年を超えるものもあります。

そのうえ萌芽力が旺盛で折れた幹や枝からも芽が出て、幹が見えないほど繁茂するのです。

つまりクスノキはその昔より、その自らの生命力によって、大木が豊富だったということです。

以上のように考えてくると、白檀の代用材としてクスノキが選ばれた理由は、ごく自然の成り行きであったと思われます。

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ご神木として崇められるほど生命力と立ち姿に威厳を備え、仏の化身ともなる聖樹、クスノキ。

住まいの空間にこの木があることはとてつもない「力」を我々に与えてくれるかもしれません。

そんなクスノキの天板を家具蔵でもご紹介しています。

皆様、一度、その尊厳に満ちた表情を確かめにお近くの店舗までお立ち寄りください。

 

参考文献:

鹿島出版会 小原二郎著書「木の文化」

草思社 西岡常一著書「木のいのち木のこころ〈天〉」

 

 


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