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白木から見る日本人の美意識

2017.10.8

以前このコラムでクスノキについてお話しました。

http://kagura.sakura.ne.jp/kagura/old_img/column/other/170903084143.html(詳しくはこちらから)

少し時代が進んで、日本人と馴染深い木となったのがヒノキです。

皆さんもよく耳にする木であり、木材かと思います。

今回はこのヒノキのお話。

ヒノキ1.jpg

 

日本人の美意識

平安時代はいわゆる和風文化が花盛りの時代でした。

寝殿造、和歌の誕生、国文学の隆盛…。

『源氏物語』『枕草子』が書かれたのもこの時代でした。

彫刻用材の変遷という少しマニアックな側面から見ても、この時代は「金銅仏から木彫仏への移り変わり」の変遷期であり、同時にそれは仏像に使用する材が硬木のクスノキから軟材のヒノキヘと移り変わっていく時代でもありました。

建材としての役割はあったヒノキですが、平安時代になってからはじめて、日本人はヒノキの木肌の中に木材としての美しさを見出した、とみることができます。

平安時代に日本人の美意識の傾向が固まったとも言われていますが、その時代に美の象徴でもあった仏像に使用されていたことがヒノキを含めた白木の偏愛に繋がったのかもしれません。

「けがれのない清浄さ」がこの時代に求められた美しさであり、我々日本人は世界でも類を見ないほど清潔好きな民族です。

そうしたDNAレベルにまでさかのぼる民族性の話にこうした「木」が絡んでくるのはたいへん興味深い話です。

 

そうした背景の中から、障子を一年ごとに張り替え骨も新しく取り替える、という習慣が生まれてきたであろうことは、想像に難くありません。

こうした考え方は、ヨーロッパ人が銀製の食器を使って子々孫々にまで伝えていく習慣とは、本質的に違うものです。

彼らの暮らし方は論理的な合理性。

一方で、日本人の暮らし方を支配しているのは、合理性よりもむしろ情感的なものでした。

そうした考え方の違いが、やがて日本独特の木の住まいづくりに発展し、借景も住居の一部と考える思想にもつながっていったといえます。

ちなみに、こうした日本的な建築や生活に関する感性の特徴は「石の使い方」を見てもわかることです。

西洋の石垣は加工した切石を使いカミソリの刃も入らないほどにぴったりと合わせて積み上げます。

対して、日本の石垣は自然石で、それぞれの形を生かしながら組み合わせていきます。

「木のくせ」を組むのと同じ要領です。

日本庭園をつくるとき、材料の石だけをみると、くず石の山のように見えますが、出来上がるとそれは大自然になります。

一つ一つの石は体積の七割が地中に埋まり、生きた一つの角だけが土の上に出ています。木の木目の生かし方と同じやり方です。

ヒノキ2.jpg

 

時代と国で移り変わる人気材

時代の流れにともなって、馴染みの深い用材が変遷することは「クスノキ→ヒノキ」の例からよく分かります。

同じような例はヨーロッパにもあります。

たとえば家具の用材についてイギリスの家具史の本「History of English Furniture」を参考にすると、

 

1.“The Age of Oak” (ナラ時代・1500?1660年)

2.“The Age of Walnut” (クルミ時代・1660?1720年)

3.“The Age of Mahogany” (マホガニー時代・1720?1770年)

4.“The Age of Satin-Wood” (サテンウッド時代・1770?1820年) 

 

に分けられるそうです。

家具の歴史を用材の極類によって時代別に区分するという考え方は興味深く、それは時代と共に嗜好が変わったことを意味しています。

イギリスでは美しく色味のある木材・木肌が愛用されたことは、日本の白木の使われ方とは対照的ですね。

そして、この考え・価値観が長く日本では日陰の存在にもなっていたナラやブナの復権に繋がります。

 

日本における建築用材は、ほとんどの時代を通じて針葉樹が中心でした。

大正の中期ころまでは、ナラやブナなど多くの広葉樹は雑木とよんで、薪木などの活用が主だったものでした。

いわゆる大和朝廷と仏教の広まりから始まる日本の統一から向こう、針葉樹が日本の木材の主役で、例外はケヤキくらいだったと言われています。

ケヤキについては硬く丈夫で金属的な光沢をもち、耐久性も高く、その材質が城郭建築によく適合していたことが要因です。

そもそも、縄文以前の時代から遡れば、広葉樹と日本人の関わりはとても古く、また、深いものだったのですが、そうした経緯もあり、あらためて国内で広葉樹の需要が伸びてきたのはここ100年程度ということです。

また、チークやラワンのような南方材がごくふだんの生活の中に入ってきたのは、それよりもずっと新しく昭和の年代になってからのこと。

 

普段の生活で木に由来しているものはそれこそたくさんあります。

そんな何気なく使っているものにもこうして文化と風習を色濃く映す、それぞれの背景があると思うと色々なものに興味が湧いてきます。

お住まいの家具、建具、道具。

お仕事先に向かうまでに目にする木々や建築。

それらがどんなもので出来ているかを見てみると、また違った角度で暮らしを考えることができるかもしれません。

ヒノキ3.jpg

 

関連リンク

https://www.kagura.co.jp/case/voice/

https://www.kagura.co.jp/kagu/materials/

 

 

参考文献:

鹿島出版会 小原二郎著書「木の文化」

草思社 西岡常一著書「木のいのち木のこころ〈天〉

 

 


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