KAGURA OFFICIAL BLOG

サクラと日本人の関係性

2017.11.5

サクラ。

いわずとしれた春の訪れを告げる、たいへんに人気の高い木であり花です。

 “国民の花”、“日本を代表する木”と言っても差し支えないほどですが(ちなみに国花に厳密に決まりは無く、菊という人、サクラという人それぞれです)、歴史を紐解くと、古くからサクラは日本人の暮らしに様々な場所で深い結びつきがあったことがわかります。

今回は(ちょっと季節外れではありますが)このサクラと日本人がどのように付き合ってきたかをあらためてお話していきます。

 

サクラ1.jpg

 

サクラと日本人の歴史

日本は弥生時代から農耕が盛んになったのは皆さんご存知ですね。

その時代からサクラが開花するのは稲作の始まりの時期であり、その咲き具合で作柄の吉凶を占う花でした。

サクラの語源は、この木は春に里にやってくる稲(サ)の神が憑依する座(クラ)であり、これは天つ神のニニギと木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)の婚姻の神話からきているとされるほど、稲作と深い関係を持っていました。

平安時代になると、貴族にとってはサクラを愛でて歌を詠むことが風流の証となりました。

ここで「花はサクラ」の志向が生まれたとされます。

奈良時代はサクラよりもウメに人気があり、万葉集では梅を詠んだものは約120句に対しサクラは約40句。

それが平安時代になり、古今和歌集でサクラを詠った86句。

梅は29句となりました。

高級層の嗜みであった花見文化が大衆に広がったのは江戸時代です。

上野山の寛永寺に吉野山の山桜を大量に移植したことがきっかけでした。

享保年間に江戸各所に花見の名所が続々出来上がり、階級社会の江戸時代において、いわゆる「無礼講」の場としてサクラの花見が広まっていきます。

一方で、江戸時代の国学者、本居宣長はパッと咲いて儚く散っていく様を「諸行無常」「もののあはれ」などを基調とする日本人の精神の具体的な例えとみなすなど、後に続くサクラの捉え方の根本を形成しました。

その豪華さ・壮健さ・樹齢の長さなどから文明開化の象徴として人気を集め、東京から地方へ急速に拡大した明治時代を経て、富国強兵の政策のなかでは軍国主義と結びつき、その華やかさとともに散り花の美しさが潔い死を美化するものとした悲しい歴史もありました。

軍用の薪木などにも使われ、戦後の道路拡張などで伐採されることも多かったサクラは次第に数を減らしていきますが、やはり人の心に根差したサクラを愛でる気持ちは無くならず、街のあちこちには桜並木が立ち並ぶようになり、名所となっているところもたくさんあります。

また、今も多くのポップスで唄われるなど、常に私たちの心の中に強く存在する木であり、花なのです。

 

サクラ2.jpg

 

仏像からみる使用用途

当然、サクラは木ですから花を愛でる以外の用途も数多く持っています。

古くからは小物入れや茶筒などの細工物(樺細工)や版木。

樹皮は桜皮(おうひ)という生薬になり、鎮咳、去痰に用いられました。

家具や建材、彫刻などでもたくさんの場で使用されています。

彫刻といえば、古代からの日本人と木の関係性を語る時に「仏像」が大きく関わっていることは、当コラムでも何度かお話してきました。

(「クスノキ 国産香木としての知られざる歴史」http://kagura.sakura.ne.jp/kagura/old_img/column/other/170903084143.html

(「白木から見る日本人の美意識」http://kagura.sakura.ne.jp/kagura/old_img/column/other/171008140009.html

サクラを仏像に使うことが広まったのは、中国から桜桃というサクラの一種が輸入されたことがはじまりです。

最初期は香りを持つ香木こそが尊いものである仏像に相応しいとされ、そのなかでクスノキは国産で唯一の香木であり、ビャクダンの代用材として最初に選ばれました。

時代が進むにつれ、仏像に対して芳香への要求は少なくなり、硬くて緻密な材質のものが強く求められた経緯があり、サクラは国産材として、それに最も適したものだったというわけです。

事実、学術的な調査では、大和地方の仏像のうち、奈良末期から平安初期にかけて、サクラで彫られたものは十数体あり、清潔感の象徴であった白木であるヒノキには劣るものの一定の数が見つかっています。

これは当時、日本の文化に強い影響を与えていた中国で「桜桃」といわれるサクラの一種が仏像彫刻の用材として使われていたことが由来であり、日本において仏像製作にサクラ材が使われた理由は、これが源流になったのではないかという考え方が出てきます。

 

サクラという木を通して見えてくる、日本人の暮らしの歴史、文化の脈絡。

外国文化との関わり。

自然のものを扱い、大事にしていきたいという家具蔵だからこそ、他の木や花についても、こうしたことを皆さんにお伝えしていきたく考えます。

 

サクラ3.jpg

 

関連リンク

https://www.kagura.co.jp/kagu/materials/cherry.html

 

参考文献

鹿島出版会 小原二郎著書「木の文化」

草思社 西岡常一著書「木のいのち木のこころ〈天〉

日本放送協会出版会 C・W・ニコル著 「歴史は眠らない サクラと日本人」

桜書房 山田孝雄著 「櫻史」

 

 


最近の投稿

カテゴリー

月別アーカイブ

  • [—]2024 (72)
  • [+]2023 (367)
  • [+]2022 (364)
  • [+]2021 (365)
  • [+]2020 (369)
  • [+]2019 (366)
  • [+]2018 (85)
  • [+]2017 (65)
  • [+]2016 (69)
  • [+]2015 (44)
  • [+]2014 (32)
  • [+]2013 (62)
  • [+]2012 (130)
copyright AIDA Co,.Ltd. All Rights Reserved.