シリーズ~建築家によるこだわりの空間と無垢材家具の奥深き世界~ ⑧
2021.12.17
インテリア雑誌や住宅雑誌、建築設計事務所のHPなどを見ると、居心地の良さそうな空間に、恐らく住まい手や設計者がこだわって選んだのであろう家具、とりわけ木の質感に溢れる無垢材家具が置かれている風景が目を引きます。
建築空間は、そこで人間が暮らす、またはある目的を持って過ごすことを目的にしてデザインされているため、配置される家具は「生活の道具」として建築空間と重要な係りを持ち、空間だけ、家具だけで存在する時よりもその魅力や本質をより強く現わします。
「建築家によるこだわりの空間と無垢材家具の奥深き世界」では、家具蔵の無垢材家具が置かれた建築家の設計によるこだわりの空間が、どのような考えの元に設計デザインされ、家具蔵の無垢材家具が選ばれることになったのか、納品後のリアルな暮らし、使っている模様を交えてお伝えする事を目的に、家具蔵のホームページ上のコンテンツ「事例&お客様の声~建築家とのコラボレーション」の内容を元に、実際にスタッフが訪問取材に伺った際のエピソード、裏話などを交えてご紹介します。
前回は自然素材を用いたデザイン性の高い建築を変幻自在に創造する建築家・松本直子さんの建築作品をご紹介しました。
建築家として活躍する女性は多く存在しますが、松本さんの素晴らしいところはその細やかな感性や美意識とともに、非常に骨太とも言える「骨格のしっかりした」木造建築をつくり出せる力量にあると思います。
それは日本の風土や暮らしの知恵から生まれた普遍的ともいえる建築手法、造形の則をしっかりと読み解き、それらを無理なく活かしながら、新たな創造を生み出すことで実現するハイレベルな設計手法です。
『チルチンびと』や『住む』という古くから発行されている住宅建築系の雑誌をご存じの方がいらっしゃるかも知れませんが、それらの雑誌に掲載される住宅や家具のテイストが好きな方はぜひご覧になってみてください。
そしてシリーズ第七回目の今回は…
建築家・遠藤 誠さん(遠藤誠建築設計事務所)が手掛けられた、新築一戸建て住宅 T邸のご紹介です。
遠藤さんのプロフィールを拝見すると、日本の現代建築の歴史を語る上で欠かせない、非常に重要なあるビッグネームが目に入ってきます。
そのお名前は、坂倉準三氏(1901-1969)。
ここでご紹介するまでもありませんが、坂倉氏はル・コルビュジェに師事し、日本のモダニズム建築を実践し牽引した建築界の巨匠のひとりとされています。
遠藤さんは1993年に坂倉建築研究所に入所されました。
そして通常は若手の所員としては数年間が多いと言われる修業期間として、約15年もの長きに渡り数々の設計実務を手掛けられました。
インタビュー時に、坂倉建築研究所への入所は「偶然だった」とお話されていましたが、興味深いエピソードをお聞きしたのでここで少しご紹介します。
遠藤さんが建築家を志すことを意識したのはいつだったのか、そのきっかけは?という質問に対して、しばらく考え込んだあとに
「そういえば・・まだ高校生の時、ある女の子と鎌倉にデートに行ったのですが、美術館の前が池になっていて、太陽の光が池の水面に反射して池に面したバルコニーの天井に、ゆらゆらとした水の動きを映していました。それを見ながら、建築家になりたい、と思いました」
そしてその美術館は、坂倉準三が設計した初期の名作、神奈川県立近代美術館 鎌倉館本館 (重要文化財)でした。
何かに導かれるようにして人生の岐路が生まれることもまたあるのかも知れません。
遠藤さんへのインタビューは興味深いお話の連続でした。
坂倉建築研究所を退所したのちに、ご自分の事務所を開設する前、一年間世界の建築を見る旅に出られたというのも遠藤さんらしいエピソードです。
「建築業界には、誰もやってないことをやろう、という傾向が昔からあって、それが当時の僕には鼻についたんです。
ストイックにシンプルを目指すミニマリズムも、そういう建築もカッコいいと思うし嫌いではないんですが、自分のやりたい方向とは違うな、と。
そういうとんがった建築は自分にとって心地いいというよりも緊張しちゃうし、住みたいとは思えない。
でも、その中でも鼻につかない建築が世界にはあって、それを独立する前に見て歩きたかった。
アルヴァ・アアルト、ルイス・カーン、カルロ・スカルパ、ルイス・バラガン。
それぞれにローカールなフィールドで活動した建築家であり、個性的なのですが、それは持って生まれたものや育った土地の風土が体に染みついてできたものなんです。
本来、個性って出そうと思って出すものではなく、そういうふうに滲みでてしまうものだと思います」
それは遠藤さんのつくる建築にも通じている特徴だといえそうです。
今回ご紹介する住まいも一見、奇をてらったデザインや仕掛けは無いように見えますが、のびやかな空間の構成、開口部のとりかたとバランス、余白の生み出し方などは必然から生まれた説得力を持っています。
きっと多くの選択肢の中から、「これ以外の選択はない」というところまで突き詰めて生み出されたであろう揺るぎのない普遍性には、どこか清々しい余裕すら感じます。
その事を遠藤さんにお伝えすると、こんなお話をしてくださいました。
「僕は、クリエイトなんかしなくてもいいと思っているんです。
その代わり、その場所、その人にとって在るべき家の姿があるのではないかと。
僕らがしているのは生み出す作業ではなく、それを探す作業なんです。
その人にとって、この場所に一番いいと思うものなら、 すごく地味で平凡なものであってもいいんです。
だから、大事なのは創造力よりも想像力。
お施主さんの話は色々聞きますし、その土地にはしっかり足を運んでイメージをいただきます。
敷地の周りだけじゃなく、駅からどうやって歩くかとか、風がどっちに抜けるかとか、いろいろ。
人と一緒で、土地が持っている雰囲気というものもありますからね」
建築家というクリエイターの言葉として、これ以上に深いものがあるでしょうか。
表面だけを捉えれば、ともすると簡単に納得してしまいそうになりますが、実際には、自己の能力を信頼し、厳しく高みを目指すものだけが語ることを許される言葉だと思います。
インタビューをさせていただいてから約8年の月日が経過し、遠藤さんの事務所のホームページには近年の作品が掲載されています。
そこには自身のお言葉を裏付けるような、素晴らしい建築の世界が広がっていました。
メープル材で製作された特大サイズのダイニングテーブル。乳白色の木色とゆったりと流れる優しい木目が、ここに集まる人たちを和ませ、おいしい食事と共に心を豊かにしてくれそうです。
「お尻が喜んでる!」と、T様ご家族が即決した「アームチェア ヴォーグⅡ」は 遠藤さんも推薦する信頼の品質。家具蔵を代表する名作チェアのひとつです。
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