奥深き「オーダーキッチン」の世界 ~その12~
2020.5.21
家の新築やリフォーム、リノベーションに際し、我が家のキッチンをどうしようか、どんなメーカーにしようか、依頼先はどこに?と様々な選択肢が浮かぶと思います。
キッチンは家の中心、暮らしの大切な舞台、などキッチンに対する重要性は益々高まってきています。
そんな中いわゆるキッチン、というごく一般的な言葉から連想される設備としての機能は日々進化を遂げています。
主に設備としての側面から、これまでに多く選択されてきたであろうものは、いわゆる「システムキッチン」と呼ばれるものかも知れません。
古くから住宅メーカーや工務店、マンションデベロッパーによる集合住宅に多く採用されてきた商品であり、高度に規格化・画一化されたキッチンのパーツを自由に組み合わせて、優れた最大公約数的解答としてのキッチンを実現できる便利なもの、と言えるでしょう。
その一方、日本人の暮らす家、住まいを彩るインテリアスタイルやアイテム、マテリアルなどの多様化により、既成のシステムキッチンでは実現が難しい、とされるインテリア的なキッチンが求められる案件も確実に増えました。
特に、キッチン本体を構成する材質自体の質感やデザインに繊細なこだわりを持って、自分のイメージを大切にし、「本当に納得のいくキッチン」を実現したいと考える人は、ここ数年で確実に増えてきたと言われています。
そうしてキッチンそのものに多くの視線が注がれるようになりました。
住宅雑誌、インテリア雑誌などでも、これまでは住まいの中で、単なる設備機器でしかなかったキッチンに焦点を当て、「こだわりを形にしたキッチン」をその着想段階から検討中のエピソードを交えて詳細に紹介する特集も多く目にするようになっています。
キッチンも大切な家具のように、天然素材本来の質感と経年変化を楽しみながら、長く使い続けるという選択が、流行、トレンドとしてではなく、成熟した住宅文化として根付いてきた、と言えるかも知れません。
家具蔵でも、定評のある無垢材家具作りで培った素材の扱いと加工技術を木のキッチン作りにも生かして、「システムキッチン」では実現できない質感と自由な発想による木のオーダーキッチンをこれまでに多く製作してきました。
このシリーズ、奥深き「オーダーキッチンの世界」では、これまで様々な形で取り上げてきたケース・スタディを改めて振り返りながら、木のキッチンを実現された様々な方のプランを隠れたエピソードなども交えてご紹介していきたいと思います。
12回目は、マンションの建て替えに際して、当初予定されていたキッチンを変更されたいというご希望からお話がスタートし、結果的に新築マンションのキッチンまわりとは思えないような、無垢材の質感溢れるインテリアを実現された方のお話です。
「同潤会の歴史を継ぐマンションに暮らす」
N様のお住まいのマンションのある場所には、もともと「同潤会アパート」という歴史ある集合住宅がありました。
その建て替えに際し、古くからの住人であったN様は内装を木の温もりに溢れた心安らぐ空間にされたいという思いがありました。
家具蔵の家具を長年愛用してこられたN様。
この建て替えに際し、家具はもちろんキッチンも家具蔵に依頼したいという強いご希望があり、建て替え計画の初期からその想いをマンション販売業者に伝えてくださいました。
新築マンションのキッチンを始めから変更し、いわゆる「施主支給」のような形にするという方法を採用。
家具蔵では、様々なタイプの無垢材キッチンを製作していますが、このN邸では、ベーシックタイプとセミオーダーを組み合わせて、対面式キッチンの袖壁タイプという要望の多い形を実現しています。
シンクの前はオープンに、IHヒーターの前は壁を立て、レンジフードへの排気を整流させるプランです。
本物を知り、良い物をセンスよく選ばれてきたN様のお住まい、キッチンに対するご希望は明快でした。
・床材を無垢材にして、長く使っている家具蔵の家具に合うオープンキッチンであること
・ツルツルしたシステムキッチンの質感ではなく、やはり本物の木の質感があって欲しいということ
・ダイニング側には何でも収納できる大容量の収納を計画すること。
キッチン家電を置く背面収納も、オーダー家具のような雰囲気のあるものにしたいというような、ごく当たり前の内容であっても、「普通の新築マンションのキッチン」では、実はなかなか実現が難しい事でもありました。
また、そういった内容以外にも、大手デベロッパーによる新築マンションに当初からオーダーキッチンを導入する事は様々な部署との調整も必要となります。
家具蔵では、専門の設計部がある事からそのようなやりとりにもきめ細かい対応が可能であったことも、このキッチンが実現された大きな要因となっています。
他の住宅の標準仕様に較べ、ビルダーの担当者も驚く変貌となったN様のお住まいは、モダンなオープンキッチンを中心としながら、どこか懐かしい雰囲気を漂わせています。
梁下を利用したオーダー吊棚は、使い勝手の良い引戸にしています。
「水屋」のような印象の羽目板の扉は、無垢材の良さを感じられ、懐かしさもありながら普遍的なデザインでもあります。天板下の空間は引出して使えるスライドトレーになっています。
「ここに友人を呼ぶと皆真っ先にこの無垢材キッチンに驚きます。ここに暮らせること、毎日の作業が今から本当に楽しみです」
というお言葉からは、日本の集合住宅の歴史を語る有名建築の建て替えという、長く手間のかかった事業に住人として携わった苦労よりも、これから始まる新生活に心を躍らせているN様の嬉しそうな様子が伝わってきます。
その他の家具蔵の手掛けた無垢材オーダーキッチンの事例はこちらから
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