家具における「アールヌーボー」と「アールデコ」
2020.10.9
インテリアや建築、工芸において、「アールヌーボー」と「アールデコ」という言葉を耳にすることがあるでしょう。
「アールヌーボー調の…」
「アールデコ調は…」
なんとなく聞き覚えはある、イメージはあるものの、歴史背景やデザイン的な特徴は意外と知らないものです。
今回のコラムは、この「アールヌーボー」と「アールデコ」について、まとめていきたいと思います。
アールヌーボーとは
アールヌーボーとは、ヨーロッパを中心に広まったイギリス発祥の新芸術運動です。
「Art (芸術)+Nouveau(新しい)」で、「新しい芸術」という意味を持ちます。
19世紀初頭の産業革命により、安価で粗悪な大量生産品が出回ったため、その反動により芸術性や独自性が高いモノを人々は求めるようになりました。
その結果、芸術品や実用品に従来の様式にとらわれない「装飾性」を施し、鉄やガラスなど当時の新素材を利用して「新しい芸術」を生み出そうとしたアールヌーボーが誕生しました。
アールヌーボーは、建築、工芸品、グラフィックデザインなど多岐分野にわたります。
アールヌーボーの建築として有名なのは、世界遺産にも登録されている現オルタ美術館。
これはベルギーの建築家、ヴィクトール・オルタの自宅として使われていました。
世界初のアールヌーボー建築、ベルギー:ブリュッセルのタッセル邸階段。ヴィクトール・オルタ建築です。こちらも世界遺産に登録されています。
フランスではパリのカステル・ベランジェが有名です。
タッセル邸にインスピレーションを受けて作られたアパートで、パリ初のアールヌーボー建築です。
世界でも有名なスペインにあるバルセロナのサグラダファミリアは、広義でアールヌーボー様式に属しています。
1889年と1890年のパリ万博でグランプリを受賞した経歴を持つエミール・ガレが製作した、数々の斬新なランプは、アールヌーボー芸術の代表とも言えます。
植物や昆虫、キノコのような自然をベースとして作られた彼の作品には、彼自身の「自然の中にこそ、美は存在する」という美意識が映し出されています。
ランプに限らず、この当時のガラス作品は曲線がとても美しい点が印象的です。
アールヌーボーの家具
歴史的背景の部分で述べた通り、アールヌーボーのデザインは機械から一歩距離を置いた、職人技が光るものでした。
特にアールヌーボーが影響を受けていたのは、重厚で華麗なゴシックスタイル、曲線が多く優雅なロココスタイル、エレガントなバロックスタイルです。
これらが混ざりアールヌーボーのインテリアが生まれました。
アールヌーボーと日本
当時の芸術家たちは、日本の浮世絵から大きな影響を受け、それを彼らの作品に反映させていたと言われています。
さらに、当時アールヌーボーに触発され、橋本五葉や藤島武二ら日本の芸術家たちも創作活動をおこなっていました。
アールデコとは
装飾性が高いゆえ大量生産に向かないアールヌーボーは、第一世界大戦の勃発とともに衰退します。
アールヌーボーに代わり、広まったのがアールデコで「Art (芸術)+Déco(装飾)」が謳われています。
アールデコは、第一世界大戦と第二次世界大戦の間に流行したので「大戦間様式」。
または、世界へ広まるきっかけとなった1925年のパリ万博(現代産業装飾芸術国際博覧会)から「1925年様式」とも呼ばれています。
直線的で合理的なデザイン、原色の対比などが美として考えられてきました。
アールデコの時代は、大衆が大量生産の商品を求め始めた時代。
芸術やデザインは一部の特権階級のものから、大衆のものへと移行していきます。
戦前の価値観は、大きく変化し機能的でシンプルなデザインが求められた時代です。
パリ発のアールデコは、アメリカで花開きます。
第一次世界大戦時のアメリカは、芸術・文化の面でも世界の中心になり始めます。
そんな、狂騒の時代とも呼ばれたアールデコも、1929年の大恐慌のころから衰退し始め、第二次世界大戦の勃発により終了します。
アールデコ期の代表的な建築は、ニューヨーク・マンハッタンの建築群です。
アールデコ期にはマンハッタンで高層建築ラッシュが起こりました。
ニューヨークのクライスラービル。建築当時は世界一の高さになりました。
エンパイア・ステート・ビルディングは、映画「キング・コング」でキング・コングがよじのぼったビルとしておなじみです。
クライスラービルから「世界一の高さのビル」の称号を奪うべく建築されました。クライスラービルとエンパイア・ステート・ビルディングで、アールデコ期の建築はピークを迎えます。
アールデコの家具やインテリア
東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)の本館1階。
中央に見えるのは、フランス:アンリ・ラパンのデザインによる『香水塔』です。
アールデコと日本
アールヌーボーやアールデコに影響を与えたとされるジャポニズム。
日本の影響を受けて繁栄したアールデコが、逆に日本にも影響を与えることになります。
明治村に移築された旧帝国ホテルの中央玄関はフランク・ロイド・ライト設計によるもの。
高い技術を必要とし費用もかさむアールヌーボー建築と違い、日本ではアールデコ様式の建築物がいくつか作られています。
アールヌーボーとアールデコのデザインにおける違い
●アールヌーボー
デザイン:曲線的
モチーフ:花や植物などの有機物
イメージ:エレガントで装飾的
流行時期:19世紀末から20世紀初め
中心地:ヨーロッパ(ベルギーのブリュッセル、フランスのパリ)
●アールデコ
デザイン:直線的
モチーフ:幾何学模様
イメージ:機能的で合理的。装飾性は低い。
流行時期:1910~1940年頃
中心地:ヨーロッパやアメリカのニューヨーク
現代の家具も、この「アールヌーボー」や「アールデコ」のデザインは踏襲されているものもあります。
身近な家具やインテリアで、探してみるのも楽しいかもしれませんね。
じつは家具蔵の無垢材チェアをはじめとした、無垢材家具たちもそこを意識したものになっています。
気になった方は家具蔵の店舗でスタッフに聞いてみてください。
新たな発見があるかもしれませんよ…。
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