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「神代木(じんだいぼく)」とは何か

2023.1.11

 

 

「神代木(じんだいぼく)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

ある意味マニアックなものでもあるのですが「神」という名がつくことでとても神聖な印象が出てきます。

あるいはどこかで聞いたことがあるような、という方も多いかもしれません。

そんな神の名を冠した木とは一体どんなものなのでしょうか。

 

 

神代木とは


 

 

「神代」とは長い年月にわたって地中に埋もれていた間に、黒褐色などの濃い色合いに変色をした木の呼称です。

山崩れや火山の噴火などで「1000年以上」地中に埋もれていた木は神代木と呼ばれ、津波や河川の氾濫などで川底に堆積していた木のことは単に埋もれ木と呼ばれます。

なお、1000年以下のものは「半神代」と呼ばれているのですが、じつはこれについては確固たる定義はありません。

1000年、あるいはそれ以上の途方もない年月を地中で過ごした木はまるで化石の様に変化をしていきます。

自然が作り出すその灰色掛かった風合いは、人工的に作られたものとは異なり私たちに自然の偉大さを感じさせてくれます。

そして、この独特の風合いを活かして、家具や建具材、また工芸品などに利用されるのです。

 

神代木はどのように発見されるのか


 

そもそも1000年以上も地中に埋もれていた木がどのようにして掘り出されるのでしょうか。

それは土地造成や河川改修工事などの際に、偶然掘り出されたものがほとんどなのです。

河川付近の湿った地層などは適度な湿気を含んでおり、酸素が絶たれた状態に置かれるなどの様々な条件が重なることで、奇跡的に朽ちることなく存続し続けます。

「朽ちていない」とはいっても炭化はしており、発掘された時はかなりもろい状態になっています。

水気も多く含んでいることから、乾燥も十分に配慮していかなければなりません。

その長い年月で生まれた希少性と、材料とするまでの繊細かつ膨大な手間から市場では高値で取引されるのです。

 

神代の言葉の由来


 

 

小倉百人一首の選歌で「ちはやぶる 神代(かみよ)も聞かず龍田川 からくれなゐに水くくるとは」という在原業平の有名な和歌があります。

この歌での「神代」とは「神武天皇が即位する前の神様が治めていた頃の昔の時代」のことを表しています。

神代木に使われる神代も基本的には同じ意味で、神様の時代から眠り続けていた木、という意味と捉えられています。

それだけの長い年月、まさに悠久の時を表すことから神代という名前が付けられるようになりました。

通常の木材や一枚板とは異なる、さらなるロマンを感じずにはいられない印象を与えてくれます。

 

神代木の樹種「神代欅(ケヤキ)」


 

 

本州、四国、九州で育つケヤキは真っすぐな樹幹から枝葉を大きく上方に広げた様に見える立ち姿が特色の木です。

耐久性の高さから優れた材料として、家具や大黒柱などに古代から好まれて使用されてきました。

元々ケヤキ材は重量もしっかりとあり、硬さも持ち合わせる材ですがこれは神代木になっても変わりません。

ケヤキの特徴の一つでもある明瞭な木目も神代となった後でもしっかりと感じることができます。

 

神代木の樹種「神代楠(クス)」


 

 

ケヤキと並んで高樹齢の御神木なども多いクス。

素材としての素晴らしさ以外に独特な樟脳の香りも特徴的で、その香りから「臭し(くすし)木」と言われたことが名前の語源です。

防虫剤や鎮痛剤としても活用された事から「薬の木」でクスになったという語源もあります。

この防虫効果から家具材や仏像製作にも活用されていきました。

神代木となった後には、この香りが少しまろやかになります。

それでも独特な豊潤な香りを楽しむことが出来る材であることはその過程を考えると自然の凄さを感じさせてくれるといえるでしょう。

 

神代木の樹種「神代楡(ニレ)」


 

ニレの木は肥沃な大地を好む樹種であり、この木が生えている場所は農耕に適している場所であると古くから開墾の目印にもされる木でした。

北海道の豊頃町にあるハルニレの木は、撮影スポットとして近年はSNSなどでも有名な場所です。

2本の木が一体化して寄り添うように大きく育った様が、永遠のパートナーと寄り添う姿になぞらえてパワースポットの一つにもなっています。

ケヤキとよく似た明瞭な木目も特徴的なニレの木は、その凛とした表情は神代となっても変わらずに楽しむことができます。

 

神代木の樹種「神代杉(スギ)」


 

神代木は、当然のことながら広葉樹だけではなく針葉樹にも存在します。

杉の木は国産針葉樹を代表する樹種であり、昔から建築資材に使われてきた、日本人にとっても馴染みのある木です。

広葉樹に比べて柔らかい木のため加工はしやすいのですが、表面硬度が求められる家具材などにはあまり向いていないとされています。

秋田県と山形県をまたぐ鳥海山の麓で、およそ2500年前の噴火で埋もれた杉の大木が発見されたというニュースもありました。

神代となった後でも硬度はあまり強くはないのですが、神代特有のくすみを持った色合いと細かな木目の表情を持った材は和太鼓や工芸品などに活かされました。

 

 

1000年以上地中でずっと眠り続けていた木が、土壌造成などのきっかけで私たちの前に現れてくる神代木。

それは時代を超えて現代に蘇るその時代の語り部ともなります。

その存在感は見る人を引き付け、その表情が語り掛ける古の物語に耳を傾けることができる、そのような魅力が詰まった大地からの贈り物とも言える希少なものなのです。

 

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